こういう時間
夜中に目が覚めて、ラジオを聞いていたらネムノキの話題が出た。
そうだった、ネムノキさんの花が咲く頃だった、会いに行こう、と思った。
昼間でも風が涼しい日で、自転車は快適だった。
公園の入り口で、そうだった、とまた思った。クチナシさんもいたんだった。
ほとんどはもう花が終わっていたけれど、まだ咲いているのが一輪、二輪とあった。
覗き込むと濃厚な香りがふわっと立って。
ネムノキさんは木いっぱいに咲いていた。
去年は花を見なかった気がする。枝が少し伸びて全体的に大きくなったように見えた。
久しぶりだね、と声に出さずに挨拶する。
ほわほわと咲く紅色の花、甘いのにさわやかさもある香り。
どうしてネムノキさんのことを忘れていたんだろう。
忘れていたのはネムノキさんだけではなかった。
空がきれいだった。
こんなふうに空を見上げたのは、そしてきれいだと思うのは、いつ以来かな。
スマホを構えて写真を撮った。きっとほかの誰かにとっては、何の変哲もない夏の空を、何枚も。
蝉が鳴いていた。うぐいすも。
どんぐりのなる木(名前がいまだにわからない)は、風に葉をそよがせていて。
こういう時間だ、と思った。
こういうふうに草木や生きものや空を、ただ見て聞いて感じている時間。
この時間なんだった。
わたしの大切な、生きているよろこびの、ひとつの。